ITとOTのギャップを解消し、インダストリー4.0のスムーズな導入につなげる

昨今、ほぼすべての主要業界の工場に共通して見られるのが、操業環境の変化に対する部門ごとの姿勢の大きなギャップです。特にこの変化への姿勢の違いが顕著に見られるのが、製造業界です。インダストリー4.0の実現につながる新たなデジタルテクノロジーや生産工程の採用を担う、2つの部門の対応能力が試されているようにも見えます。この2つの部門とは、会社の管理ネットワークを担当するインフォメーションテクノロジー (IT) と、機械やロボットとこれらのメンテナンス等の生産ライン全般を担当するオペレーショナルテクノロジー (OT)部門です。インダストリー4.0への移行を押し進めようとするとき、この2部門の連携はスムーズにはいきにくいものという認識があります。移行に関連したテクノロジーに対する理解、対応、展望といった点で、2部門間には明らかな隔たりが見られます。インダストリー4.0を導入したい各企業にとって、このように部門ごとにサイロ化(孤立)したアプローチの存在は障害となる場合が考えられます。

インダストリー4.0は、産業用オートメーションのエコシステム全体でデジタルおよびコネクテッドソリューションを採用することと定義されています。したがってITとOTとの間の乖離をなくすことの可否は、競争力のある自動化された工場への移行の可否に直接関係してくると言えるでしょう。

では、なぜこのような問題が存在し、どのように課題を克服していく必要があるのでしょうか。

組織と文化面での障壁

技術的な障壁に目が行きがちですが、大胆な変化の動きに対する社内のITおよびOT部門の抵抗 (少なくとも賛成はしていない) から見られるように、インダストリー4.0への移行における実際の大きな障壁の一つは、企業の組織と文化です。弊社が最近実施した インダストリー4.0の現状調査によると、44%の回答者が、組織あるいは文化面での障壁が最も克服が困難だと指摘しており、技術的ハードルを指摘した回答 (22%) の2倍になっています。

社内のすべてが上手く機能しているから大きな変化は不要だ、と感じている社員もいるかもしれません。しかし中には、大規模な改善の機会があると感じている社員もいるのではないでしょうか。特に若手社員などは、すべてインターネットで接続してアプリで管理できればいいのにと考えているかもしれません。

回答で最も多かった文化面での障壁 (回答者の45%) には、リーダー層が古典的アプローチに安住しているようで変化を押し進めようとしない、という指摘が含まれていました。リーダー層のこのような姿勢が経営に影響していることは明らかで、回答者の42%が、既存の投資分の価値がまだ出ていないと次の投資に二の足を踏むことがインダストリー4.0への移行の障壁になっているとし、32%が現行の会社組織が変化を阻止していると述べています。

テクノロジーの変化

オペレーションチームは、現場から上がってくる生産実績に関するデータを多く扱っているものと思われます。そして多くの企業では、この現場データをIT (会社の管理側) のシステムに渡してビジネスの意思決定に用いるためのルートがありません。現場と管理部門がつながっていないせいで、このデータを意味ある情報に変換して、歩留まりや期待するアウトプットからの逸脱等について管理側でもリアルタイムで監視し対処するということが困難、もしくは不可能になっています。

歴史的にOT側のシステムの方が、より複雑で安全や環境に直接的に影響を及ぼす可能性が高く、したがってIT部門のシステムよりも頻繁なメンテナンスと熟練者の監視を必要とします。OT側のシステムの方がより固定的で、ネットワークは (オープンと謳っている場合であっても) 専用プロトコルに基づいていて使いにくいシステムになっているのに対し、ITのシステムの方が柔軟性のあるユーザー志向のデザインと先端テクノロジーを採用したものになっています。ITは業績にすみやかに直結するために関連テクノロジーへの大規模な投資を得やすく、この分野の劇的な進歩にも貢献してきました。

もう一つ考慮すべき重要な要素が、セキュリティです。ハッキング、ランサムウェア、悪意のある攻撃などは続々と出現し、ニュースの話題にも上るようにあらゆる組織にとって大きな問題となっています。インダストリー4.0のシステムのセキュリティ確保については、多くの対策方法がありますが、ここでもまた、2部門間の「エアギャップ」(攻撃者は物理的な空間を越えられない) に安心して、OTとITでの対策を別々に考えがちです。そしてここで、理解と克服が必要となる組織のもう一つの課題が見えてきます。コストがかかってもITとOTの統一が利益と安全につながるのだということを経営陣に納得してもらう、という課題です。

ITとOTの統合のために必要なテクノロジーは何かと考えてみると、ネットワークと通信は間違いなく重要です。OT部門のシステムは、セキュリティ機能を実装しない比較的古いプロトコルを使用していることが多いのに対し、IT部門の基盤は堅牢なインフラストラクチャです。イーサネットは多くのニーズに対応した優れたソリューションではありますが、工場現場に必要な即応性と低遅延を保証するものではないため、すべてのOTアプリケーションに対応するには不十分です。最近の技術であるタイムセンシティブネットワーク (TSN) などは、このITとOT間のネットワークの変換の問題に対応し、イーサネットアプリケーションの対応範囲を拡張しますが、真の意味での統合実現というゴールまではまだ長い距離があります。

その他、IP機能を備えたプロセス管理、センサーネットワーク、データ保存用の安全なパブリックおよびプライベートクラウドといったテクノロジーが、ITとOTの統合促進に関わる重要な役割を引き受けています。Open Platform Communications Unified Architecture (OPC UA) などの標準化の実現に向けた新たなイニシアチブも進んでおり、インダストリー4.0は新しい5G通信ネットワークの重要なアプリケーションの一つとなります。

ITOTを一つにすることで状況を一変させる

企業のインダストリー4.0導入が進むにつれ、その成果が様々な指標の数値として現れるようになってきています。生産効率の改善、コスト削減、オペレーショナルレジリエンス (変化する状況下における業務の継続能力) の向上などです。ITとOTの両システム間で高コストの元となっている重複部分を取り除けば、インフラストラクチャを簡素化することができます。最近はそれらの俊敏性や柔軟性の向上も著しく、安心安全アなリモートアクセスによって、地球の裏側規模の遠隔地からでも工場を管理できるようになってきています。

実際の現場の変化はどのようになるのでしょうか。モレックスは長年、ITおよびOT部門のお客様を対象に製品やサービスを提供してきました。また、IAS4.0 (Industrial Automation Solutions 4.0) という独自のコンセプトのもと、2部門にまたがる機械装置や業務プロセス間でのシンプルで安全・安心なデータ変換を可能にするための、様々なイノベーションとテクノロジー創出に投資を続けてきました。弊社はこのほか、OPC UAのフィールドレベル通信等のオープン標準やオープンソリューション、自動化システム開発への投資を進めており、クラウドその他ソフトウェアや先端IT技術を使用した自動化システム等はモレックスのIAS4.0の取り組みの中心となっています。これは大まかに言えば、管理の部分は手放さずセキュリティリスクを生じさせることのない形で、情報と情報とをつなぎデータを楽に共有できる仕組みを作っていこうという取り組みです。

モレックスは、企業の文化や変化への抵抗といった障壁を克服する力となれるよう、単純な入れ替えや完璧を目指のではなく、小さな変化を成果として積み重ねながら前進するという姿勢で、関連チームと協力し、すべてのステイクホルダーを巻き込みサポートしながら、インダストリー4.0への動きを促進していきたいと考えています。 

OTとIT部門統一の成功例については、通信や放送業界、スマートビルディング、スマートシティ、フィンテック等、様々な業界でたくさんの例を目にしてきました。どの業界も変革への道程は極めて似通っています。OT部門の制約を解決する理想的なソリューションを見つけることが第一です。このことについては製造業界も例外ではありません。 

ニーズは明白

インダストリー4.0がもたらす利益は莫大ですが、まず多くの企業で、ITとOT部門のシステムの統合問題に対処しなければなりません。弊社の調査では、85%の回答者が、インダストリー4.0を成功させるにはリーダーシップの考えが変わる必要があると答えています。ただ組織が忘れてはならないのは、テクノロジーよりも文化的要素の方が、克服が難しい場合があるということです。

企業文化をインダストリー4.0への移行の遅れや停止の原因にしてはなりません。インダストリー4.0は業界を変革します。製造分野で言えば生産性、効率、アウトプットが低コストで大きく向上する変革です。組織や技術的な障壁を克服してスムーズな移行を可能にするには、文化、プロセス、テクノロジーを含めたエコシステム全体の確実な理解が必要であるということを強調したいと思います。また、その数年先のインダストリー5.0への移行やそれに伴い新たな課題が生じてくることも視野に入れて、確実な基礎を作っておくことが今、必要であると考えています。

Director of New Product Development and Strategy for Industrial Solutions Business Unit