複数のプロトコルの統合で、インダストリー4.0導入を円滑に進める

ほぼリアルタイムでのデータの収集と処理能力を備えた、新世代の通信テクノロジーを実現するインダストリー4.0の出現により、インダストリアルオートメーションの世界では大きな変化が進んでいます。データを基本的にリアルタイムで活用できるようになったことで、超高効率で高度に接続されたインテリジェントなマニュファクチャリング、という新たなエコシステムの形成の加速が進んでいます。旧来のフィールドバス等の産業用通信プロトコルが長く重宝されてきた業界において、インダストリー4.0は、目前に立ちはだかる脅威のようでもあります。では、インダストリー4.0のスムーズな導入の前に立ちふさがるものとは何が考えられるのでしょうか。

インダストリー4.0の導入までの道のりにおいて心理的なためらいが出てくるのは、自然な反応かもしれません。インダストリー4.0に関しては、この心理的抵抗を悪化させるような相対し合う要因が複数存在しています。例えば、スマートフォンにおけるクローズド対オープンソースで考えてみるとわかりやすいのですが、製造業界には長年、相反するエコシステムが併存しています。このインダストリアルオートメーションの分野には、「オープン」ソース対「クローズド」な専用システムの対立関係と同様、まったく異なる通信「言語」が複数併存しているのです。しかし、将来的にインダストリー4.0による完全なシームレス稼働を目指すには、いかにこれまで重宝してきた通信システムがあったとしても、今後はオープンな通信言語を基盤に据える必要があることは間違いないと言えるでしょう。

最近弊社が調査会社Dimensional Researchの協力で実施した、インダストリー4.0の現状調査の概要を見ると、移行に向けていくらかの進捗は見られるものの、製造業を根元から一変させる本来のインダストリー4.0のビジョン、つまりエンドツーエンドで完全に自動化された生産工場で数十億ドル規模の収益が生まれるというビジョンの実現は、まだ先になるという現状が判明しました。この調査では、インダストリアルオートメーションを進める上でのビジネスケースに根本的な何かが欠けているのかどうか、また、主な障壁等について調べています。

「既存の通信プロトコルに制限がありすぎる」という回答に関連して、39%が、現行のリモートアクセスの範囲が狭すぎると指摘しています。しかし同時に36%が、従来のソリューションでニーズに十分対応しているとも回答しています。通信プロトコルに関連した不満は大きく、特にリモートアクセスに関する様々な回答からは、テクノロジー導入の難しさとITとOT部門との乖離という問題が見えてきました。

綿密な協働が必要不可欠
弊社はこれまでの経験から、多種多様なオプションをお客様に説明しご理解いただくことの難しさを痛感し、綿密な情報交換の必要性を強く認識するようになりました。そして実際のところ、新たなテクノロジーの導入への障壁は、長く活用されてきた自動化システムの周辺にあることがわかりました。工場設備を運転するシステムや、システムの管理手順は長年確立されてきたもので、これに基づいた収益性あるビジネスモデルというものも、その企業で長く続いています。今問題なのは、このような従来型の運転システムにとってリモートアクセスが脅威となることです。現実として、工場の設備機器の運転には人の物理的な介入が必要となる場合が依然として多く、純粋なリモート管理による工場操業はまだ何年か先のことになる可能性がとても高いのです。

例えば自動運転化が進む自動車の分野では、より新型のモデル向けの技術的な更新の大部分は、ファームウェアやソフトウェアに対して行うものになってきています。更新をリモートで車両に届けることも可能ですが、リモート更新対応の車両用に生産ラインを移行することに、まず時間がかかるでしょう。

製造現場の状況も同様であり、通信一つとってみても様々な装置が8つもの異なる言語を使っている場合があります。ProfinetやEtherNet/IPといった言語と、旧来のDeviceNetやProfibusが併存している工場もあります。この業界においては、新規工場の建設がこれら旧来の通信テクノロジーを使い続ける前提で行われているのも大きな問題です。

EtherNet I/Pなどの比較的新しい世代のイーサネットベースのプロトコルが導入された当時は、社内システムとの接続性が大きく向上するものとみなされていました。なぜなら、イーサネット接続は接続速度や複数機器との接続性に優れているという、素晴らしいメリットが期待されていたからです。しかし、イーサネットが実は様々な理由からサービスレベルではコスト高になるということを、業界全体が見通すことができていませんでした。今となっては全体の機器の使用状況の把握も、複数のプロトコルの効率的な接続方法を考えることも困難になってきています。言語の違いを意識することなく、純粋にデータだけを見ることができるようにするには、どうしたらよいのでしょうか。

通信プロトコル不問のシステムの必要性
先に述べたような難しい現状を認識しつつ、モレックスではお客様に、特定プロトコルに依存しないシステムの導入をご提案しています。弊社では通信プロトコルやデバイス、その他ネットワーク上にある様々なデバイスの製造元の違いに関わらず、安全なメッセージングを実行できるシステムを、業界に提供しています。「機能安全」とは、メーカーの異なる装置を安全にネットワーク接続できることを意味します。関連デバイス等のセキュリティ機能実装の有無に関わらず、入出力されるメッセージは同一の装置と配線で統合され、別途デバイスを用意する必要がありません。

特定プロトコルに依存しないとは、運用のレベルで特定の仕様に左右されることなく、お客様が求められる機能的に安全なテクノロジーを提供することを意味します。例えばモレックスも、インダストリー4.0の進展に重要な役割を担うProfinetテクノロジーを供給していますが、弊社ではMolex Competence Centerから技術開発とテクニカルサポートを提供し、弊社エンジニアがお客様のProfinet仕様の設計段階から参加させて頂くという形をとっております。

またこの頃では、IIoTおよびインダストリー4.0の成長を促すスタンダードを目指して設計された、最新のEthernetのSingle-Pair Ethernet (SPE) という規格があります。この規格は、モレックスも長年参加しているSingle Pair Ethernet Industrial Partner Networkが主導しています。

ところで、このプロトコル不問とすることによる2つめのメリットですが、特定のプロトコルを使用しない自由というよりも、プロトコル間での通信用に1層のレイヤを設けている点が挙げられます。接続効率に優れた機能を実装していることは投資の正当化や促進にもつながります。

グローバルな規模で変化を実現するには、大手メーカーが、インダストリー4.0の未来に影響を与え、さらに弊社のようなプロトコル不問の技術を提供している企業と協力しながら、技術環境の基礎を整えるという重要な役割を担う必要があります。デバイスとネットワークの相性を考えずにオープンな環境で構成できる、通信仕様を問わないシステムには、実に明確なニーズがあり期待も寄せられています。楽観的に考えれば、アプリケーションの優位性が特定のプラットフォーム、通信方式やプロトコルに勝るケースが増えていき、過去の特定の通信プロトコルに対する偏見もやわらいでいくのではないでしょうか。

インダストリー4.0のゴール

使用するプロトコルやシステムを問わないインダストリアルオートメーションの導入を進めるには、文化的な部分に由来する頑固な考え方をほぐしていくことなどが、はじめの一歩として必要かもしれません。そして次のステップとして越えなければならないハードルはおそらく、各国の拠点間をまたぐ全社共通手順の策定や、リモートアクセスの定義と機能向上、そして関連トレーニングの用意やビジネスモデルの構築などになってくるのではないでしょうか。様々な分野のお客様に向けて自動化関連のシステムを提供する弊社は、様々な局面でお客様と前向きに積極的に関わりながら、インダストリー4.0促進の力になっていきたいと考えています。

“Creating Connections for Life”というブランドメッセージを掲げ、モレックスは今後も、「つなげる」技術で、お客様と共にインダストリー4.0のスムーズな導入を達成すべく努力を続けてまいります。

Global Business Development Manager